糖質制限ではなくて

ごはんをたくさん食べましょう!

 

 米飯(糖質)を食べると血糖値が上がるから、なるべく少ない方がいい。

という話を聞いたことがあるかたは多いと思います。

 

 さて、「米飯を食べると血糖値が上がる」は、その通りです。でも、からくりがあるのです。

 米飯(炭水化物)を食べる量によって、血糖値の上がり方が変わることはあまり知られていません。たくさんご飯を食べると、血糖値の上がり方がゆるやかになりますし、その逆にご飯が少ないと血糖値は非常に上がります。そのカギはインスリン(血糖を下げるホルモン)の働きです。

 

 インスリンのはたらきは、食べている炭水化物の量によります。炭水化物の量が多いとインスリンはよく効きます。つまり少ない量のインスリンで血糖値は下がります。逆に炭水化物の量が少ないとインスリンの効きが悪いので血糖値は上がります。インスリンもたくさん必要になります。つまり、たくさん炭水化物を食べていると血糖は上がりにくくなるのです。これを知ったときは私も驚きました。

 

 日本人はずっと穀物を多食してきました。戦前まで糖尿病はとても少なかったのです。もし炭水化物の多食が糖尿病の原因なら、説明が付きません。戦後米の消費量は半減、代わりに爆発的に増えたのが油脂、乳製品です。

 日本人の食事の変化 1950年から2005年

 炭水化物 79→60%  脂質 8→25%  タンパク質 13→15%

 

 

 細かい説明が面倒なかたに覚えていただきたいのは、

「炭水化物の少ない食事を続けていると、インスリンの効きが悪くなり、糖尿病になりやすくなる。(血糖が高い状態が続く)」ということです。

 

 血糖を上げたくない=太りたくないといって炭水化物の少ない食事(タンパク質や脂質の多い食事)をしていると、インスリンの効きが悪くなるのでインスリンがたくさん出ていることになります。インスリンは血糖値を下げるホルモンで、血液中のブドウ糖を肝臓や筋肉そして脂肪組織に運びます。つまりインスリンがたくさんあるということは、脂肪が大きくなっているということです。

 

 糖質制限食で最初みるみる体重が減るのは、脂肪細胞が小さくなっているというより、筋肉が脱水状態になったからです。水が抜けたから、体重が減ったり筋肉が痩せて見えます。炭水化物が入ってこないと筋肉に蓄えられていた糖質(グリコーゲン)がエネルギーに変わります。このグリコーゲンが水分を蓄えていたためです。

 

 インスリンのはたらきは、炭水化物の量に左右されています。脂質には左右されません。

 実験で脂質の多いラット(脂質多い、炭水化物少ない)と絶食ラット(つまり脂質なし炭水化物なし)を比較したところ、絶食ラットの耐糖能が悪化しました。脂質が多いことより、糖質の有無が耐糖能に影響していたということです。(だからといって大量の脂質が体に良いということではありません)

 

 極端なことをいえば、ご飯を山のように食べているなら唐揚げを食べてもインスリンは働くということです。でも、このインスリンがよく働く炭水化物の量は、1日ご飯茶碗に6杯(成人男性)です。これだけの米飯を食べると、唐揚げはたくさんは入らないでしょう。おかず優先ではなくて、ご飯優先です。ご飯を(たとえば6杯)食べるためにおかずを食べます。当たり前ですが、適度な運動も必要です。

 

 たいていの場合、たんぱく質・脂質の多い食事、つまりおかずが多い食事ではごはん(炭水化物)の量が少なくなります。だから、インスリンのはたらきが悪くなるということです。すなわちご飯を食べたら血糖が上がります。

 

 糖尿病の診断方法のひとつにOGTT(経口ブドウ糖負荷試験)というものがあります。みなさん、健康診断の前日の夜だけ食事を抜いたり少なくしたりしていませんか?この検査の前には、それは危険です。

 山梨大の12名の学生さんを対象にした興味深い研究があります。

 検査前日の朝食、昼食は普通食(炭水化物60%)

1回目の検査 前日の夕食を炭水化物が少ない食事(ステーキ、ポテトフライ、サラダ)にしたところ、耐糖能が著明に低下。糖尿病に類似したものになった。

2回目の検査(同じ学生)検査前日の夕食に炭水化物が多い食事(どんぶりめし、豆腐の味噌汁、野菜のおひたし)では、耐糖能は正常。

 つまり、検査前日の夕食の炭水化物の量で、糖の代謝能力が変わるということです。炭水化物が多ければ、糖代謝は正常ということです。

 

 炭水化物が多い食事の威力をもう一つ。アメリカのバーナードの研究です。

治療中の2型糖尿病患者を、①植物中心食(ビーガン食:穀物+大豆+野菜+果物)量は好きなだけというグループと、②アメリカ糖尿病学会推奨食(総カロリー制限あり)のグループに分け、運動習慣は変えず22週間観察したというものです。

その結果、

炭水化物の割合 ビーガン食 70%に増加  推奨食 47%に減少

HbA1c   ビーガン食 著明に低下   推奨食 若干低下

血中脂質    ビーガン食 すべてにおいて低下

        推奨食   総コレステロール、LDLコレステロールのみ低下

血糖降下薬   ビーガン食 43%の人が減薬

        推奨食   26%の人が減薬

穀物中心食は、すごいです。なにしろこの研究のビーガン食は、食事量が無制限ですから。

 とはいえ、肉魚卵乳製品も適量は食べたほうがいいと、私は思っています。

 

ヒムスワースの研究  アメリカの疫学研究。

・アブラっぽいものが好きな人(バター、脂肉など)は、糖尿病になりやすい。

・炭水化物が好きな人(たんなる甘み、ジャムなど)は、コントロール群よりむしろ糖尿病率が低い。→なりにくい

・糖尿病発症前の食の傾向 総カロリーが高い、脂質多い、炭水化物少ない。

・糖尿病の素因のある人が、炭水化物が少なく油脂が多い食事を続けていると発症。

 

これらのデータは、佐藤章夫著『米と日本人』より転記させていただきました。

 

  どうぞ、お米(穀物)をたくさん食べてください。

 それから、油脂を減らすこともとても大事なことです。コレステロールが気になるなら、食べなければいいのです。タンパク質をたくさん食べなくてはならないという呪縛から逃れて、ご飯をたくさん、おかずはほどほどで。

 タンパク質が多く含まれている食物は、油脂も多く含まれています。ご注意を。ましてや揚げ物にしたら、なんでも美味しくなりますが、油脂量が爆発的に多くなってしまいます。シンプルに焼いたり煮たりして食べてください。 

● 油脂が多いと皮膚バリアの機能が低下する。

 クラシエ株式会社 漢方研究所の研究より

 高脂肪食のマウスの皮膚は弱くなり、外部刺激によって皮膚バリアが容易に破綻すること、十味敗毒湯(漢方薬)が皮膚バリアの修復機能を助けることがわかった。

 

 「脂質を減らしてください。」と言うと、「肌がガサガサになりませんか?アブラが出なくなるような気がする。」とおっしゃるかたがいらっしゃいます。

 大丈夫です。脂質の多い食事が、肌を荒らしているのです。